フリージャーナリスト 森川天喜(あき)の取材記録

フリージャーナリスト 森川天喜の取材記録です

鎌倉の大仏様 半世紀ぶりの「健康診断」を終えて

新聞などで「大仏様の健康診断」などとも伝えられたので、ご存じの方も多いと思うが、鎌倉大仏(国宝銅造阿弥陀如来坐像)は今年1月13日~3月18日まで、約2ヶ月にわたる大がかりな調査・清掃作業を終えたばかり。

このような大仏の本格的な調査は、1959(昭和34)年から2年半かけて行われた、いわゆる「昭和の大修理」以来、およそ半世紀ぶりとなる。

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(調査・清掃作業を終えた鎌倉大仏)


3月22日、高徳院で今回の作業に当たった東京文化財研究所による記者会見が行われた。ニュースサイトでは文字数の制限があるので、改めてここで少し詳細な情報をお伝えしようと思う。

■健康状態は「おおむね良好」
東京文化財研究所の森井順之(まさゆき)主任研究員によれば、金属状態調査の結果、心配された進行性の腐食生成物(サビ)の存在は小さく(背中付近にスポット的なものが数カ所確認されたのみ)、経過観察で十分と結論付けるなど、大仏の状態は「おおむね良好」とのこと。

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(金属分析調査の様子 写真:東京文化財研究所)

■免震装置の調査
鎌倉大仏の免震装置は、「昭和の大修理」の時に導入されたもので、台座と仏体を切り離し、鉄筋コンクリートで補強された台座の上に御影石を載せ、その上にステンレス板を置き、水平に仏像が地震時にすべることにより免震とする、いわゆる「すべり免震」が用いられている。

今回の調査で、「すべり免震」に用いられているステンレス板に汚れはあったものの、腐食や変形等、大きな問題は見られなかった。

ただし、半世紀前の免震装置であるため、現在の免震装置と比べると、メンテナンス用の空間が確保されていない、すべった後に「戻る」動きが弱いなどの課題もあるという。

森井氏は、「今後も調査を続け、大地震の際に装置がきちんと機能するかを確認する必要がある」と述べた。

■クリーニング
大仏は年2回、「お身拭い」として、高圧洗浄機を用いての清掃作業を行っている。しかし、足場の高さの制約などで、頭部など高所は充分な洗浄ができていなかった。今回は、大仏の周囲に素屋根を組んでの作業を行ったため、頭部を含め充分なクリーニングができた。

とくに外周は界面活性剤による洗浄のあと高圧洗浄機を用いて洗い流した。鎌倉は海に近く潮風の影響を受けやすいため「塩害」が心配されるが、洗い流した水の塩分濃度を測定した結果、像の表面に付着していた塩分も、かなりの割合で除去できたのではないかという。

■チューインガムの付着
今回の作業でクローズアップされたのが、像の外周に30ヶ所、内部(胎内)に100ヶ所以上見つかった、心ない拝観者によるものと思われるチューインガムの付着だ。

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(左膝上に付着したガム 写真:東京文化財研究所)


付着後かなり時間が経過しているものもあり、像を傷つけないようメス等により少しずつガムの表面を削っていき、溶剤(酢酸エチル)を浸した綿棒で拭き取るという手間のかかる作業が必要なため、1ヶ所除去するのに30分~1時間かかるなど、かなりの時間を要したという。

一部、まだ除去しきれていない箇所もあり、今後、寺院で対応する方針という。

■大仏の顔は金色だった?
もうひとつ話題になっているのが、大仏の顔に残る「金」の存在だ。

X線調査などの結果、左右の頬、鼻頭、まぶたに金が残っているのが確認された。大仏の顔は、かつて黄金色に輝いていたのだろうか? なお、現在のところ、金箔が貼られていたのか、鍍金(トキン 金メッキ)であるかは判別していないという。

■今後の予定
現時点では、緊急の修理は必要ないとし、今回の調査で取得したデータは解析を進め、4月以降に論文等で発表していく予定という。

高徳院 佐藤住職のお話
調査・清掃作業の完了を受けて、高徳院の佐藤孝雄住職は、「無事に終えてホッとした」と語る一方で「安閑としていられない部分もある」という。

世界的な問題となっている大気汚染などの問題に加え、今回発覚したガムの問題も重視している。

「大仏は国宝仏として希有(けう)な存在。ガムの件は一部の心ない拝観者の所業と思われるが、現在のような(胎内拝観も許す)拝観が今後も続けられるかは、ひとえに拝観者の良心にかかっている」と述べた。